それでも回送バスははしってゆく/石川敬大
 
 ほら横なぐりの
 ぼたん雪のなかを
 回送バスがはしってゆく
 窓を曇らせ
 満員にひしめいた乗客の気配だけを乗せて
 がらんと無人の灯りを点して
 回送バスがはしってゆく
 消息がない
 とは
 息がとだえて感じられないこと
 なのに、ひしめいた気配だけを感じる
     *
 すでに何周も
 周回遅れになった
 長距離ランナーのようにせつない
 虚ろなおもいを抱えて
 はしってゆく
 ぼたん雪のなか
 波がひいたガレキの
 タイヤのシャフトに漂流物がひっかかっている
 腹をみせ横倒しになり窓からカーテンをのぞかせている
 それでも回送バスは
 岬をまわり入江の町並みをぬけて
 営業所をめざしてはしってゆく
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