お・ふ・ろ/天野茂典
 

変身した母は好きだった
母の名刺の裏側をみてみたい
推理小説を読むように好奇心をさそわれるが
不条理なことにぼくはそんなものみたことがないのだ
寿司屋を手伝い 専業主婦になった母に
名刺はいらなかったのだろう


パートでもフリータでもなかった母の無名性
母は記憶を忘れるために毎晩風呂に入る


眼に見えない名刺を持って
ひっくり返すのだ 虫がいなかったかと





                     *平田俊子『お・ふ・ろ』


                      2004・11・04 
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