なかないいのち/ベンジャミン
 
{引用=捨て猫だった
やせっぽっちで
瞳ばかりが大きいだけの
頬ずりしたくても顔が小さすぎて
両手のひらにおさまってしまうくらいの
けれどあたたかな体温をもっていて
まるで熱のかたまりみたいな
そんな いのちだった

つれてかえったときにはもう
自分では立ち上がれないほど弱っていて
口を小さくあけてもなき声をあげられないほど
今にも消えてしまいそうな いのちだった

生まれてから数えるくらいの日々を
何も知らず知らされないままに生きて
けれどその瞬間を何よりも懸命に生きようと
なくこともできなくなるほど訴えていた
両手のひらに伝わってくる温もりは
たしかな い
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