春の音/寅午
きょう、季節の帳簿は冬に逆もどり
北風がふき 雪が
山のほうからちらちら飛んできて
冬のいかつい手が コツコツと
貯めてきた春の貯金を
ごっそり帳簿からかっさらった
開きはじめた菜の花も 顔を曇らせて
春の日ざしもそそくさと店じまい
でも 春は かわいい頑張り屋さん
遠く、南のほうから風がふいてくる日
山々がぼんやり寝ぼける日
春のちいさな手が コツコツと貯金をつみたてる
生き物たちの 一心の期待をせおって
ちいさな手が 貯金箱に
キラキラの金貨をなげいれる
ねっ、きこえるだろ?
貯金箱におちる 金貨の音が
月の晩、貯金箱のなかで
金貨の、寝返りをうつ音がきこえたよ
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