雪−だれにともなく、話しかけたい/うめバア
雪が降り出して
過去から電話が
かかってくる
空から
落ちてくる雪は
ただ無責任に、軽やかで
遠い外国の物語の初めみたい
赤子は、ガラス越しに
生まれて初めて雪を見る
冷たいガラスに手をぶつけては
不思議そうな顔をする
合間
交差する景色は、あれは5年前
革の靴底かつかつと
走り降りていたころの
地下鉄
長い、長いエスカレーター
契約が更新されるたび
いつかは判で押したような毎日をと
じっと、願い続けて通った道
降る音を、じっと聞くのは
最初なようで、そうでもなくて
垣間見える景色
かき消していく
雪が、どんどん降ってくる
いままでと、これからを
笑うみたいに
そこからと、あの先を
遊ぶみたいに
忘れていた約束を
思い出すみたいに
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