白に沈む/涼深
 
白、という色は感覚を鈍らせる。



粉雪が踊る
大地も空も空気さえも、息をひそめた世界で
ただ、そこに在るというだけで
乱暴なまでに視線を奪う
ただ一人の愛しい人

瞬きすら惜しく
魂がただあなたへと向かっていくことを止められない


背後にあった二対の足跡も
目の前にあった一対の足跡も
深く深く沈んでいくというのに

白に閉ざされた
今、この時が永遠に続くことを願った


春の柔らかな陽だまりも
夏の煌めく海も
秋の燃える山も

冬の前ではなんて無力なのだろう


腐食してく檻と
朽ちていく鎖を知りながら

息をひそめていた



不意に
強い風が吹き抜ける

雲の隙間から光が降り注ぎ
あなたは空を見上げた


「時」は決して止まっていなかったのだと
「命」は流れ続けていたのだと
嘲笑う白銀


末端神経が痛みを訴え
心臓の軋む音がたてた


二人の間に粉雪が舞い上がる



白、という色はすべてを奪い去るのだ。






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