風の試合/小川 葉
 


誰もいない国の
サッカー場の真ん中に
ボールがひとつ置かれている

誰もいないスタジアムから
歓声は上がることもなく
ボールは蹴られ
試合がはじまる
もちろんピッチには誰もいない

ボールは転がる
その意思とは関係なく
まるで誰かが転がしているように

するどいカーブを描き
視界から消えた
ボールがゴール前で止まる
それは明らかに
風の仕業などではない

生きている
あるいは
生きていたのだ
このスタジアムを満たしていた
あらゆる人の目が
今ひとつになって
ひとつの玉の行方を追うのだ

風の悪戯が
一線を越えて
シュートがきまると
聞こえてくる
蘇る歓声と
一喜一憂する
彼らの肉踊る音

誰もいない
滅んだ国の
サッカー場の
そこには風しかないのだが

頭蓋骨の
わたしがひとつ
ころがっている


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