絵描きと球体の話/相田 九龍
と不可解になったんだ
絵描きは嘘を重ねて
不安定なその上に立って
たくさんの筆に囲まれて
背中を丸めて
どうしようもなかったんだ
どこかへ行きたかった
どこにも行けなかった
だからまた嘘をついてしまったんだ
会いたくないって女に言ったんだ
球体は辿り着いた
自分を理解してくれる人だった
ようやく辿り着いたんだ
でも目も耳も口もなかった
感覚がなかったんだ
お互いが何も感じられなかったんだ
それでも辿り着いた
ついに辿り着いたんだ
校庭の真ん中で寝転んでいた
誰だか分からないけど寝転んでいた
砂の上に
誰にも気付かれないような絵を描き込んだ
その後で寝返りを打った
忘れられない何かがあった
それがふわふわと空に浮かんでいた
もう嘘のなくなった部屋で
絵描きは一枚だけ絵を描いた
誰に忘れられてもいいような
忘れられない絵を描いた
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