日本料理店/朧月
 
古い家屋に手を入れてできた料理屋さんは
まるで人をこばむように
さっさとおゆきなさいと 
言うように人の気配を消す
庭に咲いた花まで

初老の店主は言う
ひとつひとつ皿を運び
魚です 野菜です 想いです
箸の運びまで指定する

掛けられた絵からは歴史が
閉じられたドアから森が
ひそんでいるから私は
息を殺し背を正す

ありがとうございます と言いなさいと
教えられたあの頃を
なぜか思い出しました
祖父母の顔と共に

店にいる人たちは
全員 女性で
年の順に座りました
上座は 空です


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