dragon kissed the crescent./鈴木陽一レモン
む…。では、お主の願いを叶えてしんぜよう…。」
ギャレットは、こう言った。
「願い事は、あとひとつだけ、残っている。」
夜は闇色を濃くしながら、傷口を白く光らせて黙っていた。
しばらく、待ったあとに、龍は
「…? ん。だから、その、願い事を叶えるよ?」って訊いた。
ギャレットは
「願い事は、あとひとつだけ、残っている。」と言った。
「えっ。だからー、その、願い事って、なあに?」
と、龍はやさしく訊いてみてあげた。
「願い事は、あとひとつだけ、残っている。」
ギャレットは、まっすぐに見つめた。
気まずい沈黙のち、龍は
「まあええわ。」とだけ呟いて、にょわーんと空に還っていった。
打ち上げ花火でも見るみたいにして、ギャレットは、その首をすんごい角度に曲げてみせた。それから消えてしまうまでずっと、龍の残像を眺め続けていた。
「…願い事、あとひとつだけ、残っているのにな…。」
って、心の中でだけ、静かにギャレット。思った。
おしまい。
戻る 編 削 Point(0)