暗闇の中/寒雪
か
気付かずに
そおっと動かした右手が
不意にきみの胸に触れる
どくんどくんと
次第に速度を上げていく
きみの鼓動
小さくうめいたきみの声に
弾かれて手を払いのけたぼく
手を伝わってやってきた
きみの飾らない音は
ぼくが普段感じている
心臓の叫びと形が同じせいなのか
なぜだかぼくは安堵する
ゆりかごに揺られて
一人未来の夢を見る
乳飲み子の安心感にも似ていて
ぼくはその場で寝てしまいたくなる
緩やかに色を纏い始めている
少しずつ薄れていく暗闇の中
見えるようになった互いの姿を
よく見ようと目を凝らす
こんなに近くでぼくらは二人
息を潜めていたんだ
そう思うとおかしくて笑いたくなる
ぼんやりと浮かぶきみの目鼻が
ぼくに今日を教えてくれる
ぼくたちはそれぞれ
きみとぼくの日常を
互い違いに生きていく
見上げた時見下ろす太陽が
毎日それをぼくに教えてくれるのだ
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