ぼくに手紙を/オイタル
ちひざで
細々と冷たい消雪の水を流してる
奥のほうで 幾人かの黒い影が
ゆらめく
(今日も立ち木が
風に震えあがって)
雪の根から生え出して
身をたわめるポスト
遠くから来て深く吹雪をかむったおとうさんや
紙包みを抱えた直径五十センチのおばあさんが
たたいたり 背伸びをしたり
時々悪気なくつねってみたり
みんな
赤いね なんて言ったか言わないか に
すぐ消えて
そのときふと
薄い路地の陰から
懐かしい友達が 懐かしいままの顔で
ぼくに手紙をくれまいか
断りそびれた手紙
理由のない手紙
蔓の巻いた手紙
曲がった指の先に
凍てついた星の切手を貼り付けて
黙り込んで
湯気立つカップに手を伸ばし
猫の丸みをなでながら
底の抜けた夜の広場のいすに腰掛けてぼくは
雪明りを頼りに
闇の中の他愛もない文字を追うだろう
拝啓も海景もない
時候も微香もかまわない
そんな埒もない
長い手紙を
だれか手紙をくれまいか
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