記述するための準備/非在の虹
在り得ぬ場所を記述するために
一本の樹木のてっぺんにのぼり
上昇するもの 落下するもの を
確認しなければならない。
(ときに鷹は天に向かって堕ちるから)より多くの
生物の鼓動を 聞き耳を立てて
ときに海溝に沈み マリンスノーとなり記述する。
あるいはマッコウクジラにもなるべきであろう。
あの空中への跳躍とあの潜水は学ぶべきだろう。
地面への愛を忘れることは出来ない。
地面への愛なしには 地ねずみのほくそ笑みも
ゴミ虫の泣きごともヴェラキラプトルのあくびも
聞き漏らしてしまう。
すべては在り得ぬ場所への
この地平からの
くちづけだ。
在り得ぬ時代を記述するために
あの男の最後の晩餐のテーブルの下に
もぐらなければ ならない。
消えた事件だけが消えない。
一枚の皿の上にこぼれたミルクは何時間で蒸発するのか。
いとしいりんごが腐敗するまで
忍耐強く観察する。脱ぎ捨てられたレインコートを嗅ぐ。
小さく声を発する。
(放屁も必要であろう)
ここにおいて
在り得ぬ場所と在り得ぬ時代の記述の準備が
ようやくにして整うのである。
戻る 編 削 Point(2)