something wrong_01/ehanov
 
品川駅まで歩いて向かった過去の記憶を思い起こし、電車では数分で着く近さのところでも、歩きでは数十分かかることを知っていた。
ましてや東京駅から渋谷駅なら、歩きで数時間はかかるに違いないと思った。
草原に道はなく、夜空は紫色にぬかるんでいる。駅の電灯は立ち並び、明滅する。
ざわざわ、とどこかで騒がしかった。私以外には誰もいないと思ったし、実際誰もいないが、騒がしかった。
草原の向こうにはビルやら道路やらの街があり、ビルの中や道路の中には他人がいる。彼等の姿は見えなかった。顔も影にまみれて、意思疎通などかなわないだろう。それは私の制定した泥人形なのか、私を制定した異物の制定した私以外なのか。いずれにしても、他人は遠かった。胸の中が黒く夜に更けてゆくのを感じ、心で音が、からん、と鳴る。


私は駅の二つしかない改札口で外を眺めながら、煙草を飲もうとポケットを探った。
薄暗い風が私の全身を撫ぜるように絶対零度で吹き荒んだ。眼鏡をかけていない彼は、藤原さんでしかないと思った。

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