知るということ/salco
 
死は厳粛なものだ
だから死ぬがいい
人の1個が終わる時
連綿たる格闘の歴史が閉じる時
膨大な記憶の書庫が燃え尽きる時
小さな存在の事実が消失する時
肉体はそれでも生きようとする
瀕死の臓器、細胞の1つ1つが燃焼している
続けようとするのだ
頑丈で放恣な筈の人間が大気中でみじめにも
釣り上げられた魚類に成り下がり
虫けらにまで零落した呼吸が止み瞳孔が開いた後も
心臓は細動する
精密機器だけが拾う、不随意筋の微弱痙攣
そのように苦しみ抜き、力尽きて死ね
頭蓋内のささくれに過ぎぬ領域ではなく
現実を完全包囲され退路が断たれた逼塞
日毎の衰弱を、全てを簒奪されて行く状況を
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