入れ物/アンテ
 
キくんも待ってただけ
女の子は車椅子の向きをくるりと変えて
廊下を先へ行ってしまった
お礼を言う間もない
ぼくの気管が良くなったのも
ひょっとしたらって
訊きたかったのだと思い出しても後の祭りだ

入れ物をしっかり密封すれば
中身を詰めかえる必要もないし
量を気にすることもない
ああ だから
ぼくは砂時計が好きなんだ
時々さかさまにして
さらさら さら
中身があることをたしかめる
ぼくの心のなかにも丘があって
砂時計が時間を刻んでいるのだろう
ぼくが助かった時も
やっぱりあの二人が
ぼくの砂時計を
ぼくの人生を

顔を上げると
ヒナコちゃんが立っている
肩で息をしている
パーにした右手で
ぼくの手の動きを制して
ヒナコちゃんはゆっくりとしゃべった
読み取るより先に
言葉が直接頭のなかに流れ込んでくる
わたしの声が聞こえる?
うなずく
聞こえるよ
ヒナコちゃんもうなずいて

右手と右手を
ぱちん とあわせた


                 連詩「メリーゴーラウンド」 13





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