不吉な水溜り/瀬崎 虎彦
 
憂鬱が鐘を打つ日

しなだれかかる花と枝葉
背中に影のレースを編んで
見も知らぬ世界の歌をうたっている
その影は誰よりも近しい人
私を小さくして大きくした人
振り返らないルールなので
太陽の熱と影の涼やかさだけで
判断しなくてはならない

地に立ち
声を涸らし
白夜もオーロラも知らぬ
ファルセットも白鯨も知らぬ

誰も立ちふさがってはならない
誰も立ち止まってはならない
忍従のカーテンが
別の世界の外側の世界を描いている

The outside of the other side.

枯渇した理性
孤立した理想
錆の匂いばかりが充満する
不吉な水溜りで
赤い水ばかり飲んでいる
赤い水ばかり湧いている

部屋の外へ連れ出された
泉のほとりで裸にされた

赤い水ばかり湧いている
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