役立たずな/寒雪
人々の不幸を暴き立てるために
睥睨し荘厳に昇る太陽の光を
紅い白目の中に取り入れ
嘆き悲しむきみの背後で
ぼくは聞こえないような小さい声で
きみの悲しみを言葉に置き換える
今まで生きてきて覚えた
海馬の辞書に蓄えた言葉の数々を
惜しみなく並べ立てているのに
うなじから立ち上るきみの香りが
鼻腔をくすぐる程の近い場所に
いたはずのぼくは気が付くと
襟足をつかもうと手を伸ばしても
かすりもしない状態に
長い間生きてきて
ぼくの脳裏に留まってきた言葉たちは
ぼくの生き様を語るのには余るほど
なのに
きみの一瞬を形容するために
これほどの言葉が
表に
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