バースキャナル/望月 ゆき
 
 
{引用=
 /ゆるやかにカーヴした、なまぬるい運河を泳いでいく、とてもとても遠い夢を、ぼくはみていた。かつて、水の膜が皮膚を覆い、閉ざされたその海で、波間をたゆたう、不定形な固体だった。長く、漂っている間ずっと、えら呼吸をつづけていたのに、さかなになれないまま、産まれてしまった。やがて打ちよせられたのは、ひどく不完全な、岸辺。


 /教室で、初潮についての授業を聴くあいだ、窓から入りこんで、わたしばかりにまとわりつく、塩素のにおいと、プールサイドのはしゃぎ声。泳ぎは、にがて。息つぎのしかたを、いまも知らない。教科書に挟みこんだそのにおいを、ときどき持ち帰ってしまう、すると、決まって
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