男と冬/山人
 
氷したのだ
喜びを得たい、切りたいと疼いていた
鹿をビニールシートの上に乗せ、ナイフをぶすりと入れる
左右に切り開かれ、筋、関節、などを知り尽くした男のナイフは
妖艶に赤く光り肉にめり込んでいく

解体は一人では未だ終わらない
乾燥や塩漬けであと数日は加工する必要がある
背骨に沿った肉を切り取り、塩を塗る
鉄板に鹿の油を塗りつけて、塩味だけのソテーだ
血がまだ踊り、そこに在りし日の鹿が弾んでいる、命の味がする
確かに鹿は躍動し、跳躍していたはずだ

雪は本降りになり、また長い冬がやってくる
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