男と冬/山人
 
煙突の突き出た丸太で作られた小屋
男は荒砥、中砥、仕上げ砥をそれぞれ一枚抜きの板におき
刃物を研ぎ始めた
小屋の中には丸いストーブがごうごうと燃えている
小屋の一角には一昨日捕らえた鹿が横たわる
男は外の雪を目で追い、ほんの少し窓を開ける
むせるように風雪が窓を打ち、男の喉に入った
山は昨日から荒れ、本格的な冬が来たのだ

男の愛用しているマグカップに、琥珀色のウイスキーが注がれ
乳白色のランプが灯された
刃物を研ぎ始める男、入念に丹念に、荒砥から中砥と研ぎ
ランプに刃先を照らし見つめている
刃を爪に押し当て、スッと刃先を動かすと爪の表皮が刃に食い込んでいく
刃が着氷し
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