鍋/寒雪
木枯らしが子豚のレンガを
吹き飛ばしてしまおうと
肺活量一杯に呼吸をぶつけてくる
その風の強さを外壁に浴びて
小さくくしゃみを繰り返す家の中
テーブルを囲んで家族で鍋
大した具は入ってないけれど
みんなで他愛もない話をしながら
食べる鍋の味はなぜかうまい
十年前一人で食べていた
夕食には和洋中のおいしいおかずが
たくさん並んでいたけど
それを会話もなく黙々と食べていた
自分はそれがおいしいと
思ったことは一度もなかった
ふとよぎる昔の思い出を振り払おうと
頭を軽く振る
その後見えた湯気の向こうの景色が
にじんで見えにくかったのは
たぶんぼくのせいなんだろう
食べ終わっていつかなくなってしまう
鍋を前に長く味わうため
出来るだけゆっくる食べるぼくを
家族は貧乏臭いと笑った
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