コロッケ/鵜飼千代子
飯田橋から乗り込んだ三鷹行きの総武線は
ぎゅうぎゅう詰めではなかったから、
身体がぺとっとくっついてしまうことはなかったけれど
あなたの降車駅が近づくとおもむろに鞄から詩誌を取り出して
「可哀想なんだ」と伝えて来た。
(わかったよ、我慢する。)
わたしは黙って聞いていて、
あなたは目を泳がせたまま鞄に詩誌をしまい
そうするうちに着いた降車駅で降りた
本心をいう時に、いつも目が泳ぐんだね
あなたはきっと、
眼底に金魚を飼っている
*
しばらくぶりに例会で見たあなたの鞄は
草臥れてぼろぼろだった
中身の書類にばかり気を取られて、
鞄のことなんか、使
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