引き出し/寒雪
 


きみとぼくが
冬の体温に冷やされた
剥き出しになったコンクリートの
痛々しい街角で出会った時
心の引き出しには
確かに出会いの感動が
喜びの記憶と共に
大切にしまわれたはずだった


春の新緑に笑いあったり
夏の砂浜に喜びあったり
秋の紅葉に泣きあったり
冬の新雪に寄り添いあったり
繰り返す季節
重ねていくセピア
二人が共に過ごした年月が
長くなっていくと
心の引き出しにしまった
出会いの感動は
どことなく喜びの色が
煤けて見えた


どのような形でも
いずれ二人は
別々に歩いていく
その時出会いの感動は
別れの悲しみに取って代わられる
だが
決して喜びが悲しみに
駆逐されるわけではなく
悲しみに押し込まれて
引き出しの奥に隠れてしまうだけ
そのことを覚えているから
人はまた新しい出会いの感動を
心の引き出しにしまうため
他者と交わろうとするのだろうか
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