記憶の小道/殿岡秀秋
コトバになる前の液体が
血管のように
からだじゅうをめぐって
指のさきからしみでる
溶けているのは
うれしい
かなしい
すき
きらい
うつくしい
きたない
そして
点滅する信号のような想い
管の壁から塊が
血栓のようにはがれる
再現されることを拒んできた記憶の結晶
浮いて
ながれて
狭くなったところをふさいで
重くて
暗いダムになる
ながれをとりもどしたい
日々携帯パソコンをひろげて
キーボードを指でたたくと
コトバになろうとして動く力が
ハンマーになって
氷の塊のような結晶を打つ
われて
くだけて
ながれて
古い記憶
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)