失くし物/山中 烏流
お前が私の頭に触れることは
玄関で靴下まで脱ぎ、放ったあとの
一つの儀式だった
おい、納豆の匂いがするぞ
八歳の妹は部屋から顔を覗かせる
お前はその頭も追うのだけれど
そいつはまだ、その匂いに慣れていないから
諦めるといい
ベランダに近い座卓がお前の特等席
そして、その胡坐の上は私の特等席だ
コンビニでは一番高かったウイスキーが
家に一つしかない透明なコップに注がれていく
お前は美味そうにそれを飲む
毎日、毎晩と飽きもせず
それから
麻雀のテレビゲームを起動させるのだ
全く器用な人ね、と
母が笑っている
母のセ
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