比喩/寒雪
昨日十六年連れ添った
黒毛の雌猫を失った
土へと還すため
スコップを右手に穴を掘る
彼女がいなくなったというのに
空は相も変わらず
いつか遠足の日に海辺で見上げた
ソフトクリームの白い雲と
キャンバスにぶちまけたペンキの水色を
いつまでも顔色に携える
適当な大きさに掘り下げられた
ぽっかりと空いた墓穴に
そおっと彼女の骸を寝かせて
今度は地上の風に触れて
すっかり柔らかい面持ちの土を
少しずつ彼女の上に
生前好きだった柔らかな毛布を
少しでも真似て彼女の体にかけていく
穴を掘る時よりも時間がかかっているのは
疲れたせいなだけではない
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