出発/天野茂典
 


咲く花の、瞳の外へ、柔らかな鮑は退屈なあくびをしていた。もぐればいい。底へ、底へ
ムツゴロウのように干潟の海を泳げばいい。潮は退かない。街へ行くバスは、発車したばかりだ。もう一時間は来ないだろう。透明な水族館が欲しい。回遊魚が欲しい。回遊という名の日常ーー。懐へ閉塞してぼくらに出口はなかった。嘔吐。吐きつづけること、ホオダワラ破いくらでも外界へ文字を開いているのだ、丘に登ってもいい、昔祖先がそうしたように・・・・。柔らかな物言いの南画、墨絵のようにけぶって山は、卵を落とす。悔恨ではない。退潮した干潟も捨てがたい、露出した岩石の荒野。沖合いあるかに貨物船が通る。潮位は月の引力にかかわってい
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