帰郷/いねむり猫
夕暮れが 古い白壁の影を刻み
小さな町の家たちは 街灯に身を寄せ合う
息をひそめた町へ
男は にじむように戻って来た
夕餉のしたくの手を止める女たち
薄暗い窓から光る目が見つめ
夜を迎える儀式のように
町は 小さく身震いして 男を受け入れる
男が歩んだ修羅を 語り継ぐ友は死に絶え
背にのしかかる荷物が ほころび色あせたように
長い旅が男を変えた
遠い昔 この町を離れた
柔らかな柳の葉が 川面にゆれる季節
誰にも告げず 小さな熱狂を青い胸に置いて
今夜 町のはずれの 荒れ果てた家に
小さな灯が点され
男は ずっとそこで暮
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