雑音になった君へ/ゆるこ
夜は記憶の始まりから来たのだと
慰めるように紡いでいた物語を
君が聞くことをやめてから
どれだけ経ったのだろう
昨日から
世界にひびが入りはじめている
そこからあふれる酸素を
人々は喜んで飲み込んでいる
君が雑音になってから
私の耳に留まっていたヘッドフォンは
いつしか風になって
つむじをくすぐりながら
溶けてしまったよ
何かしらを発してばかりいたからかもしれないし
何事も受け入れることを恐れすぎたのかもしれないけれど
君が両手を広げる度に金切り声をあげる世界が
今はやけに愛しいんだ
(鉛色の空に浮かぶ
君のギターと安っぽいアンプから溢れるでたらめのチープソング
ららら で閃いて
調節しては落ちて行く青い言葉
私はそれがとても美しく好きだった)
搦め捕られたコードから溢れる
それは産声と紙一重で
私は雑音になった君を
とても愛しいと思う
だからさようならをしよう
さようなら
さようなら
易しい言葉
雑音になった君へ
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