亀裂/寒雪
 


通りかかった河原で
目に溶け込む焼け付く夕陽
網膜を通って脳にたどり着いた紅は
海馬の中で捨てられうらぶれた
記憶の亀裂を掘り起こす
時が急激にブレーキをかけて
皮膚の周りを
穏やかに緩やかに通り過ぎる
流砂の時に揺られ浮かび上がる
セピアの悲しみに涙が溢れる


大人しく寝入った静寂な空気の中
一人無機質な部屋で文字を追う
刹那飛び込む言葉の津波に溺れ
苦しさに胸を押さえて助けを求める
記憶の亀裂が再び脳裏に浮かび上がり
歩みをゆるめる時に翻弄され
再生された苦しみに息が詰まる


日常
思い起こすことのない亀裂は
ふとした出来事でいつでも奥底で
燻る心を弄ぶ
いつでも冷静でいたいと願う
自らの意思はその都度
引きずり出された感情に裏切られる
亀裂の嘲笑を
乗り越えることが出来ないから
人は悲しみを理解するのか

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