HOME/佐倉 潮
 
 重心を失った雨が、バラバラに散乱している。
 あまりにも長く家を離れていたので、今や自分の家が湖の畔にあったのか、山の裾野にあったのかも、忘れてしまった。なのに俺は、無性にそこへ帰りたくなって、当てもないのにあちこち歩いている。
 だけど追い打ちをかけるように、この雨。
 宿はいくらでもある。俺を受け入れてくれる宿なら。金だってある。少しばかりなら。でもこの雨を避ける傘はない。雨は重力を無視して心臓にまで入り込んでくるのだ。雨粒は俺の髪を濡らし、目玉を濡らし、毛細血管を濡らし、涙になるより先に小便になって身体から出てゆく。
 俺はいくつの頃に家を出たのか、覚えていない。癇癪を起こして飛び
[次のページ]
戻る   Point(2)