独りぼっちのビニール傘/さつき
ビニール傘がぶら下がっていた。
レンガ模様の歩道は車道より一段高くなっていて、
車道に面した側に、等間隔に木が植えられている。
そしてその木々を支えるように柵が各々に作られており、
そのうちの一つに、ビニール傘がぶら下がっていたのだ。
その日は雨が降っていたのに、道行く人びとは皆傘をさしていたのに、
そこだけ時間に取り残されているようだった。
その時の私は大きなピンク色の傘をさしていて、
でも気持ちはあんまり晴れやかじゃあなくって、
だから、そのビニール傘が妙に気になったのだった。
傘にだんだん近づいて行くにつれ、私はどんどん困ってしまった。
傘を既にさしているのに、別の傘を拾っていっても意味がない。
しかし無視して通り過ぎるのも少々冷た過ぎやしないか。
その、あらゆる場所で一本数百円で売られている、工場で機械的に大量生産された無機物が、
柵に支えられてひょろっと生きている木よりもよっぽど有機的に見えたのは、
私の妄想に過ぎないのだけど。
あの傘がどうなったか、今の私にはわからない。
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