おはじき/乱太郎
空をなぞって
言葉がはじけていたのは
少年だった頃
女の子がおはじきに
言葉を色分けして空き缶に詰めていった
夏の海に帰る前に
すき
という二文字が
砂浜を駆け廻り
澄んだ水いろに運ばれていった
十才の麦わら帽子
さようなら
といって手をふったのは
また明日もね
という合図
女の子は夕日に連れられていった
あれから
数十年
裸足を濡らしながら海辺を歩いていたら
「あら、こんなところにどうしてかしら。」
白い腕をのばして妻が拾う
「私も小さい頃よくおはじきで遊んだものよ。」
手のひらでにこり笑う妻
「もういらないね。」
おはじきを
そっとさざ波に還してあげた
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