見送る/岡部淳太郎
俺たちは列車を見送っていた
線路の脇の柵に囲まれた高台の上で
俺たちは黙って立ちつくし
通り過ぎる列車をただ見送っていた
柵を乗り越えて列車に飛びこもうと思えば
出来たはずだがそうはしなかった
列車の中には座って眠ったまま
乗り越している人がいるはずだった
俺たちは乗り越すことも出来ずに
ただ列車を見送るだけだった
空は息を敷きつめたみたいに曇っていて
どこまでもつづく線路のように果てが見えなかった
俺たちはそれぞれによく似た互いの顔を見交わし
また視線を落として線路を見た
いまもどこかで列車が走りどこかで
もうひとつの俺たちが分裂して佇んでいるはずだった
俺たちは
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