ねじ穴と球体/魚屋スイソ
 
すぎた結果、ふたりのからだは抜け殻になってしまった。胃や腸や心臓や脳までもが干からび、ふやけ、ちりぢりに破れて沈殿していったのだった。もはやどれが少女の淡いくちびるで、どれが少年の鋭いくびすじであるかも判断できなかった。
 それでもふたりは交わるのをやめなかった。
 ふたりが最後のオルガズムによって放出したのは、それぞれの眼球であった。
 球体の底ではじめてふたりはみつめあった。
 まもなく球体がはじけた。

 ボウルは空になっていた。おとこは顔をうしなっていた。
 部屋は紫がかった気配で満たされ、加速度的にその水位をあげながら、ぎちぎちとふるえていた。火を放てば破裂しそうなほどであった。
 かつてあったおんなとおとこの生活はどこにもなかった。あるのは錆びついたうなり声と、鈍い蠕動と、凍えるような点滅だけだった。まるで工場だった。
 おとこはからだを研ぎ澄ませると、飛沫をあげながらねじ穴のなかへと消えていった。時計まわりの、ゆるやかな回転だった。
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