喪失感は地面を掘っていって/乱太郎
瞼の奥で失っていたことに気づく。しかし、
それが、髑髏を巻いていたひと夏の感情だ
ったのか、それとも、行きずりの女が床に
棄てた水着の匂いだったのか。朦朧と立ち
込める喪失感だけが、ドラムを叩いて意味
不明の歌詞で熱唱している。
(海の底では蝉の死体が
亡き母の乳を吸っている)
黒衣のモーツアルトが橙色の蝋燭で街を照
らしているのに気づく。怒鳴り声。空を切
断するような悲鳴が、避雷針に飛び掛かる。
モーツアルトはそんな事にはお構いなく、
いや、薄ら笑いしながら、黙々とこなして
いく。まるで真夏の夜のレクイエムを聴か
せるように。
(空の洞窟では生き返っ
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