腕のない手が/紀田柴昌
 
腕が 熔ける
ちりちり と熔ける

宵には、つかめていた
宵には、はさんでいた

腕が 融ける
ぢりぢり と融ける

夕闇には、つまんでいた
夕闇には、触ってた

手をあげれば、はさんでいた
手をあげれば、つかんでいた


光が 石を説かす時

今は、虚空を
今は、虚構を


つかむことができない
つかみことさえできない


光が それをさえぎる
すべての 煙を消し去ってしまった

腕のない手が 光を遮りたいと 唸っている

私は、説かされた石を じっと見て
それを知る

けれど、私は深淵の底を 
もう、消え去った 深淵の底を
もう、消え去った 腕のない手で

あたかも、そこにあるがごとく 唸っていた
 
戻る   Point(0)