泥が流れる/紀田柴昌
泥が流れる
下流へと流れる
底へ溜まり 澱み始める
蒸留され さらに濃く深くなる
気づいたときには 頭まで埋まっていた
見上げると そこには澱みのない
美しい水が溜まっていた
手を上げれば 届いてしまう
手を上げて 触った瞬間
雨のように降りそそいだ
底の泥を薄め流して呉れた
ような気がした
だけど 僕は 手を挙げない
僕には 挙げるべき 手がなかったのだ
僕は 跳ねる
天井の水溜りに触りたいがために 跳ねた
跳ねた、跳ねた、跳ねた
体中に 泥を塗しながら 跳ねた
でも 届かない
懸命に跳ねる、跳ねる、跳ねる
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