言葉の葉脈/田口 南
僕がいままで忘れ去った人々と
僕がいま思い出せる人々
その数を数え終わった夜
祖父が遺した辞書を 僕は開いた
僕はひいた
《忍耐》という言葉を
僕はひいた
《永遠》という言葉を
僕はひいた
《訓古学的》という言葉を
茶色く焼けたページ
少しずつ虫に食われている
とても古い辞書
とても厚い辞書
言葉よ どうやら
お前には[かわり]がいるらしい
しかし言葉よ
お前とその[かわり]は
まず 絶対に
同値ではない
なぜなら お前には
多くの人々によってついた
微笑みや
罵声といった
《感動》という名の
垢があるからであり、
その垢は
決して洗い流せない
意味として
お前にひっついているのだから
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