マスタングの鬣/亜樹
雨が降ると母譲りのくせ毛が四方に跳ねる。
母の巻き毛は天使のそれだが、
私のそれはケダモノの荒々しさだ。
高校のときの同級生は雨が降ると喜んで、
私の髪を触りにきた。
青毛の馬のたてがみに似ていると言う。
何が楽しいのか知らないが、
懐かしい匂いがすると言って
メリットの匂いのする髪の端に
恭しく口付けをした。
雨が降ると母譲りのくせ毛が四方に跳ねる。
母の巻き毛は今でも天使のそれで、
時折童女のように笑む。
私のそれは今でもケダモノの猛々しさで
乗り手のいない野生馬のようだ。
恭しい手つきでたてがみを撫で付ける彼がいないので
仕方なく自分で櫛を通す。
雨に混じった自分の体臭は
あの日のメリットの匂いではなくて、
ただ遠く懐かしい
どこかの荒野のにおいがした。
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