反映/豊島ケイトウ
のです。
母の太腿は青白く発光しておりまして、その発光はナイフを舐めつづける男の顔に詩をもたらしたものです。
(ああ、男の眼窩に立ち上るきざはしが、
一段一段よくできたきざはしが、
母の発光に照らされて、
ワタクシは、
もう、
ナイフを舐めるのをやめられなかった。
ああどこもかしこも中有に似た人いきれです)
父は双子の片割れなのでときどき兄と入れかわって兄と母の情事を見守りました。
どこか惚けたところのある兄はまさに野良犬のような野蛮な腰使いでしたが、母は大層すばらしい光を宿しました――狼藉を働く月明かりと混ざり合ってまるで深海に眠る姫君のようでした。
男はやがてナイフをゆっくりゆっくり呑み込んでいきました。
口から赤い石楠花を間断なく吐瀉しつづけるのを、ワタクシはナイフを舐めながら、じいぃっと眺めておりましたところ、きざはしのやつがね、きざはしのやつに誘われるままにね、うっかりナイフを呑み込んでしまったのです。
……なので今も小骨のように胸腔に、引っかかっているってわけです。
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