マーメイド海岸(連作集5)/光冨郁也
いくつかの閉ざされた売店。
オフシーズンの海岸を歩く。黒っぽい岩をつかむ。白い波が岩に打ち付けられる。わたしはバランスをとりながら、海岸でマーメイドを探す。あたりには誰もいない。波しぶきが上がった。顔にかかる。手でぬぐう。ジーパンが波で濡れてしまった。冷たい潮風に凍える。息がわずかに白い。いるわけがない、そう思いながら海を見た。
突然、遠く波間で、何かが耀いた。
(あれは何だろう)
よく見ると、波に金色の髪が見える。やがて光は消え、海面に尾ひれが上がる。紺色の海がうねる。マーメイドは本当にいるのかも知れない。波が押し寄せる。海岸を歩いた。濡れたジーパンをひきずり、少しでも近づこうとする。
波打つ海に、また金色の髪が見え隠れする。海から風が吹き付ける。遠く稲光がして、雷が鳴った。
わたしは立ちつくしていた。しばらくして、風がやんだ。波の音も消えるころ、金色の髪に雪が降り始める。
[グループ]
戻る 編 削 Point(11)