バベル/リンネ
った。顔が削れてなくなっているが、もとからそうだったのだろうか。母親のような人のうしろ姿が、奥の部屋に消えていく。ここは、ひょっとすると私の家かもしれない。しかしこれも、結局は建物のつくった幻だろう。
ドン、ドン、ドンと、家のドアをたたく音が聞こえる。覗き穴から外を見てみると、先ほどの男女数人が、じっとこちらを覗き返している。彼らは一体だれなのだろう。彼らもまた、この建物にとらわれてしまった人間なのだろうか。もしくは。
私は急に、笑いはじめている。これも幻なのだろうか。私は本当は、待たれていないのだろうか。急いで家の中に駆け込む。懐かしい食卓があった。
「オマエハマタレテイル、マタレテイル。」私の家族のような人たちが、嬉しそうにそう言いながら、私を迎えた。玄関ではドアを叩く音が発作のように続いている。
だが、それ以外は全くの、全くの無音である。
つまり、空の息も、すっかり聞こえなくなってしまった。
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