ペインティング/林帯刀
 
くたびれた
染みだらけの腕だ
しゃがれ声は
夕方まで
遠ざかる老人の背中から
見えない坂の先から
じんじんと
響いていた


達者にしているだろうか
あの後彼は戻ってしまって
また机にかじりついている


でも時々
顔を上げては
まぶしそうに目を細めるのを
新しいガラスごしに
見たよ


あんたの
染みだらけの服じゃ
いつか
連れていかれるんじゃないかと
それだけが心配で
この間のペンキが切れたらまた
顔を出すだろうから
いまだに
この金臭い店を
辞められずに
いるんだ


西の公民館の上の
皺が寄ってるあたりから
よく似た
染みのついた腕が
伸びてきてる
あんたを探して
桜を撫でる音が
している


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