冬で死ぬ/竜門勇気
失ったものが一つある
失ったものが一つだけ
春でした
たとえようもなく春でした
どこの世界でも
一人で生きていました
それはほんとうは勘違いで
僕はたとえようもなく惨めでした
眼を閉じてごらん
君しか見れない場所が見える
ほんとうだ
僕しかいない世界だ
この世界は
あったかくて
安心で
さみしくて気が狂いそうだ
あの日は春でした
こらえきれ無いくらいに春で
秋で夏で冬でした
思い返してみると
記憶の中には無意味にしか感じられないことばかりで
なんでこんなこと覚えてんのかね、なんて
空笑してしまいます
そしてふと
僕は無意味なんだなと気づくのです
そういった素材でできた
張りぼての内側で
そういった自分で溜め込んだ
無意味を溶かしたレンズでみた世界に
そういった自分を溶かして
ただ満足している
退屈でした
不愉快な気楽さでした
言葉がいろんな場所から飛んできて
僕の大事な場所をすり抜けて消えていく
春は腐っていて
夏は干からびて
秋は食い散らかされて
冬で死ぬ
戻る 編 削 Point(2)