バックミラーに映る景色/仁惰国堕絵師
その初老の運転手さんはとても話し好きな様子で、乗り込んで車が走り出すやいなや、すぐに私に話しかけてきた。
人と話をする気分ではなく、私はそのテンションに少々辟易としたりしたのだが、感じの良い運転手さんだったし本来私も決して話が嫌いなわけではないので、目的地に到着するまでのしばしの間、人生最後の会話を楽しむことにしたのだ。
運転手さんはいろんな事を知っていた。
裏通りの近道。
美味しいラーメン屋さんが何処にあるか、何時頃なら空いているか。
有名な某作家の家はどの辺りにあるだとか。
酔っぱらいの対応はどういう風にするべきか。
安全な仮眠場所とはどんなところか、などなど。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)