ゆく/山人
 
 

 小さなザックを背中に背負い、懐かしい山村のバス停で下車した。少年時代を過ごした村である。すでに稲刈りも終わり、刈り取られた稲の株から新しい新芽が立ち上がり、晩秋の風に晒され微かになびいている。落穂でも残っているのか、カラスが何羽も行ったり来たりしている。未だ舗装されていない小道を歩いていくと、深い山容が正面にあった。魔谷山と言われる伝説の山である。名前に魅せられて標高こそ千メートルを少し超える程度だが、多くのハイカーが訪れる山である。
 取り憑かれたように突然目を見開き、村人達が山に分け入り、そのまま消息を絶ったと伝えられる魔の山。そんな伝説が登山口の小さなプラスチックの看板に書かれ
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