白い手/小川 葉
 
 
 
深夜帰宅して
一人で遅い食事をしていると
ふと封が開けられないままの
なわとび縄を見つけた

息子がなわとびが苦手だから
ある休日
百円ショップで買ったものだった

次の休日には
と約束したまま
まだ封を開けてさえいなかった

父がはじめて
釣りに連れていってくれた日
わたしと同じ気持ちが
父にもあったのかもしれない

ミミズが苦手なわたしが
ミミズを捕まえる父を見てるうちに
出来るようになっていた

その後わたしの手を洗ってくれた
父の手を忘れない
わたしの白い手を洗ってくれた
父の黒い手を
その手でわたしの手のよごれを落とし
ますます黒くなっていく
父の手を

そんなわたしの白い手も
いつしか黒くなっていた
息子の手と比べたら
あの日の父と
きっとおなじくらいに

気がついてくれるだろうか
あの日わたしが感じたことを
なわとび縄の封を開け
次の休日には
と誓う

眠る息子の
白い手を握りしめながら
 
 
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