浅草物語 /服部 剛
 
紙袋に入れ 
階段で眠る爺ちゃんのもとへ 
まっすぐに歩いた 
しゃがんで ぽん と肩を叩いて 
「これあげまん、腹が減ったら、食べて」 
「おぉ、あげまん・・・!」 
およそ70年前の 
純粋無垢な少年の 
笑顔は時を越えて 
しゃがんだ僕の目の前で 
ぱっ と花開いた 
爺ちゃんの体から 
ぷうんと漂う匂いは 
あげまんをふたつ袋に入れた 
日頃の僕の、匂いであった 
  * 
朱色の雷門をくぐり 
仲見世通りの人込みを
掻き分けながらまっすぐ抜けて 
辿り着いた本堂で僕は 
ぱんぱん両手を合わせ 
人のこころの{ル
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